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【レポート】「タイ12の秘宝」を訪れ、魅力を知る 郊外の観光アピールでリピーター層狙う(前編)
年を追うごとに訪問旅行者数が増加傾向にあるタイ・バンコク、バックパッカーの聖地とも呼ばれ、混沌と猥雑さが共存していた東南アジア屈指の大都市はここ10年で完全に様相を変えてきた。かつての名物、渋滞と排気ガスが消え去ったわけではないが、屋台や市場では価格が明示され、近代的で清潔なショッピング・モールが続出するなど、安心で安全な時間を提供すると同時に新たな滞在の楽しみを提供し、次なる旅の形で旅行者を魅了しはじめている。
タイ国政府観光庁は「学生マーケットへの販売促進」に力を入れ、昨今ささやかれている若年層の「海外旅行熱の低下」や経済的理由などによる「卒業旅行マーケットの停滞」へのテコ入れを目指している。またすでにバンコクなどの主要都市への訪問経験があるリピーター層への再発掘を狙い、タイ国政府観光庁を挙げて「タイ12の秘宝(12 Hidden Gems)」を刊行、主要都市以外の「12の魅力的な県」を取り上げることで、大都市に集約、あるいはそこで完結しがちなタイ旅行からさらに視点を広げてもらい、タイの本当の魅力に出会ってもらおうと努めている。
今回はその「12の秘宝」のうち、「アートの街/芸術あふれる場所」として紹介されている、ラーチャブリー県を紹介したい。
「ラーチャブリー」という地名に馴染みが薄いかもしれないが、バンコクから西に100キロほど、日帰り観光も可能な位置にありながら、数々の知られていない魅力を秘めたエリアだ。ツアーの定番である、水上マーケットを訪れた方も多いかと思うが、このエリアはそれ以外にも大きな魅力を秘めている。さらに掘り下げた水辺のひと時や地元の人たちに欠かせないローカル・フード、国内旅行者を惹きつけるフォト・スポット、幻になりつつある伝統芸能など、体感しながら楽しめるラーチャブリーをお伝えしたい。
さらにタイ旅行の拠点となるバンコク市内の最新のランドマーク、地元で話題のエリアやショップ、写真を撮らずにはいられないスポットなど、バンコクの新たな魅力も併せ、前後編に分けて記していく。まず前編では「体感するタイ」を紹介したい。
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バンコク名物の渋滞を避けるべく、早朝の暗い時間にホテルを発ち、ラーチャブリーを目指す。バンコク市内からラーチャブリーへは100キロほど、車で2時間弱の道のり。ラーチャブリーにある「ラオ タクラック水上マーケット(Lao Tuk Luk)」へ到着、朝の時刻にもかかわらず、しっかり暑い。
土壌豊かなこの土地では古くから運河を使い、王宮に農作物を運び込んだことから水上交通が発展、それが現代まで活用され続け、今では「ラックハー」「アンパワー」「ダムヌンサドゥアック」「ラオ タクラック」という4つの水上マーケットに広がりを見せている。
今回訪れた「ラオ タクラック」はその中でも最古の歴史を持つ水上マーケット、欧米からの旅行客の人気も高く、狭い水路はラッシュ状態で観光ボートがひしめき合っている。その水路の脇を自動車のエンジンを積み込んだ高速船が水しぶきを上げ滑っていき、その波に煽られた手漕ぎの物売り舟ののどがさだけが、どことなくかつての王朝時代を思わせてくれる。そんな喧噪と激しい水しぶきを避けたい向きには近郊の農場訪問をお勧めしたい。
訪れたのは「メー トンイップ ガーデン(Mae Thong Yip Garden)」という5人の家族で切り盛りする農場。35エーカー(約14万平方メートル)という広大な土地を所有しながら、わずか5人での家族経営という大農家はココナッツやマンゴ、グアバやローズアップルといったフルーツ栽培を中心に、海外輸出も手がけているという。
まずは採れたて無農薬のフルーツ盛り合わせがお出迎え、続いて「カオニヤオ・マムアン(カオニヤオ=モチ米、マムアン=マンゴ)」が美しくテーブルを彩る。タイの名物料理も「甘過ぎるココナッツ・ミルクのもち米が苦手」という向きが多いが、自家製らしく和菓子にも似た淡白な甘味、男性陣でもお代わりに手が伸びるほど、農家のお母さん手作りの味が染みる。
軒先では出荷できないマンゴをペースト状にして天日干しに、柔らかい板状に乾いたものを菓子として保存、出荷する作業を一家で行っていた。「メー トンイップ」(メー=お母さんの意味)の手作りお菓子が、バンコク辺りのレストランでどこかの国の旅行者に齧りつかれているに違いない。
農場の実りを楽しんだ後、敷地内の水路を手漕ぎボートに分乗し、クルージングへ。水路の両脇にはさまざまなフルーツの樹木はもちろん、水稲、糸瓜などの作物も植えられ、まさに恵みの地『ラーチャブリー』を目の当たりにできる空間、その間の水路を舟は静かに漂っていく。
エンジン音も人いきれもない静かな水辺の時間が船上の面々の気分を穏やかに癒してくれる、他では味わえない時間が広がる、こんな素朴で澄んだひと時を味わえるのもまた旅の楽しみのひとつ。同じ水路にいながら、水上マーケットの活気と喧騒からはかけ離れ、別次元を思わせる。
異国の地で恵みの土地に臨むのはまさに貴重な体験であるが、農場のご主人(メー トンイップの息子さん)によるとこの春から「農場見学」「農場体験」のようなツアーを懸案中だという。地元当局とも手を組み、地元の新しい産業、労働力の開拓にも一役買うべく準備中だそうで、日本からの参加者にもぜひこの特別な時間を体感してほしいとのことだ。
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のどかな農場を後に一行は「タオホンタイ・セラミック・ファクトリー」へ。
芸術の町であるラーチャブリーは焼き物に適した土壌を有し、かつては「水瓶の町」としてタイ全土にその名を知られていた。水道の普及やプラスティック製品により、衰退の途をたどることとなるが、今もアートや室内装飾品などを買い求め、この町に足を運ぶ人は多く、最近では写真を撮りたいタイ人の国内旅行者の数が増加傾向にあるという。
ギャラリー併設の工場は入場無料で見学できるので興味のある方は足を向けてみてはいかがだろう。
続いて立ち寄った、隣町のポータラーム(Phothara)では、「タオフー・ダム(ダム=黒、タオフー=豆腐)」を試食。
独特の色合いは八角などの漢方のエキスに染み込ませたもの、見た目とは裏腹に口に含むと臭みはない。地元では食卓に欠かすことのできない一品だとかで、小さな町の一商店が一日300個もの黒豆腐を売り捌くそうだ。こんな風に小さな田舎町の路地裏を歩き、地元の人たちの日常の味に出会うのも楽しい。
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バスは「ワット・カノン」を訪れる。
タイで最も古い伝統的屋外芸能「ナン・ヤイ」、乾燥させた牛革に光を当てて演じる影絵はスコータイ王朝時代から存在したといわれている。王族を楽しませる娯楽から発展したものの、巨大な牛革に細工を施す技術者や上演者など伝統芸能継承者自体の衰退などに加え、保存時のねずみや害虫による食害やずさんな管理などから忘れ去られた芸能、滅びゆく伝統となりつつあったが、高僧ルアンプー・クロムが建立した「ワット・カノン」に引き継がれ、この寺で息を永らえることとなり、現在に至っている。
この伝統芸能は「次なる世界遺産」とも評されており、巨大な影絵を生み出す牛皮で作られた作品群を気軽に見学できるのは今のうちかもしれない、目の当たりにできる今はまさに一見の価値ありと記しておく。できることなら「ナン・ヤイ」観劇が遠い存在となる前にこの寺を再訪したい、と思うのは贅沢な願いだろうか。
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タイ国政府観光庁のチャッタン・クンチョンナアユタヤ国際マーケティング担当副総裁は、「宗教や人種に関係なく受け入れるのがタイの国民性、それをぜひとも訪れて感じてほしい。年間渡航者は4千万人に達するが我々の目指しているところは人数でなく、個人個人の満足度を高めていくこと。タイを訪れ、幸福に感じるか、旅を楽しめたか、といった点に比重を置きたい」と今後の抱負を語った。(取材協力:タイ国政府観光庁)