2014年2月8日、高級ホテルをチェックする覆面調査員が主人公である話題の映画、「はじまりは5つ星ホテルから」の劇場トークショーゲストとして、ホテルジャーナリストの小原康裕氏と、ホテル格付研究所取締役の村上実氏が招かれ、世界の高級ホテルについてその魅力を語った。
ゲストの1人である小原康裕氏は、恐らく日本では彼だけであろう、世界のホテルを語れるホテルジャーナリストである。過日刊行された話題の写真集「
WORLD'S LEADING HOTELS 」(オータパブリケイションズ)は、同氏が長年に渡り撮影してきた、世界のリーディングホテルからの厳選した写真を美しいレイアウトで魅せる写真集であり芸術本でもある。
日本人の海外旅行客数は1980年頃から増加、2000年には1,780万人に達し、2000年代は概ね1,700万人程度で推移しており、特に近年では格安航空券などの普及もあり、若者が気軽に渡航するようにもなった。旅行につきものなのがホテル。五つ星の高級ホテルから簡易なホテル、ドミトリーなど様々な形態はあるが、やはり憧れは五つ星に代表される世界に名だたる高級ホテルである。しかし、日本国内ならまだしも、海外の高級ホテルを利用する機会などないという方も多いことだろう。なぜ小原氏が、世界の高級ホテルを知り尽くすことができ、「WORLD'S LEADING HOTELS」を刊行するに至ったのか。その秘密を探るべく小原康裕氏を訪ねてみた。
(小原氏のホテル談話に頷く筆者)
まず、驚いたことに小原氏はホテル業界及び関係業種で働いたことはないという。元々海外で金融関係の仕事をしていた。勤務先はドイツにある再保険会社で査定やレーティングを担当する、各国を飛び回るビジネスマンであった。再保険という複雑な仕事柄だろうか、会社が用意した各国の最上級ホテルを頻繁に利用する機会を得た。
その後帰国。書店である雑誌と出会うことになる。それが伝説のホテル雑誌「月刊ザ・ホテル」であった。泊まったことのある素晴らしいホテルばかりが取り上げられていた。その後、日本ホテル業界の重鎮、土井久太郎氏を介して、冒頭に記した劇場トークショーのもう1人ゲストである、月刊ザ・ホテルの編集長であった村上実氏との偶然の出会いがあり、ホテルジャーナリストの道を歩むことになる。村上氏は小原氏と初めて出会った時の印象を「オーセンティクなホテルラヴァーズがあらわれたと思った」と語る。その当時、日本人で世界各国多くの高級ホテルを知る人物はいなかったからであろうか、小原氏は日本レストランコンサルタント協会に入り現在は理事も務める。
ひとりのホテルラヴァーズが、日本を代表するホテルジャーナリストになったのだ。
(村上実氏)
「ホテルはその国、その街の文化を凝縮した玉手箱である。世界のリーディングホテルを利用する人間は、真摯な態度でそこを理解しなくてはならない。それは本物を知るということである。」と小原氏は語る。
世界のリーディングホテルは、その国にとって重要な歴史、物語、逸話が凝縮されているという。同氏は意外にも、日本のビジネスホテルをランキングする選者などもこなすが、実は学生時代から登山や見知らぬ土地を探求する興味があったといい、国内の駅前旅館や安宿にも詳しい。
インタビューを進めていくと、それらの批評も世界のリーディングホテルのジャーナルも、一貫しているのは常に利用者目線ということだ。「自腹でホテルを利用し、自分のカメラで写真を撮り、自分の言葉でホテルのゼネラルマネージャーと話し、ジャーナリストとして表現する」という。
欧米のホテルでは英語が公用語ではあるが、実はゼネラルマネージャークラスにはドイツ系の人物が多く、保険会社勤務時代にドイツ55年駐在、ドイツ語に堪能だったことが彼と世界のホテルを結びつけることにもなった。またワインへも造詣が深く、レストランの給仕達ともすぐに打ち解け合える。「ワインは第三の言語である」とも語る。長年に渡る世界のリーディングホテルに対する真摯な姿勢は、ホテルを理解するためのツールを会得することにもなったのだろう。
海外へ出向く機会が増えた日本人の若者に、少し背伸びをして是非高級ホテルを体験してほしいと語る。そこには歴史があり、文化が息づき、オーラがある。しかし、それらを真摯な態度で理解する姿勢がなければリーディングホテルを理解できない。ワールドリティーディングホテルは、人間をも成長させる玉手箱なのである。
(左から、筆者・村上氏・小原氏)
さて、名だたる世界のリーディングホテルで小原氏が推薦するホテルはどこか?
その答えは、世界のリーティングホテルが芸術性の高い写真と文章で紹介された「
WORLD'S LEADING HOTELS 」(オータパブリケイションズ)にある。同氏に選ばれたホテルがストーリーと芸術性をもって紹介されている。
(インタビュー・執筆、ホテル評論家・Hotelers編集長 瀧澤信秋)