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全米で広がる観光客向けワクチン接種、医師に注意点を聞く【コラム】
日本では、全国規模での新型コロナ対策のワクチン接種が始まりました。「他の先進国と比べ、取り掛かりが遅い」という批判こそあれ、接種が開始されたことで「より自由な暮らし」への目途が付き始める良いことではないでしょうか。
そんな中、市民向けのワクチン接種がひと段落付いたアメリカでは、多くの州で「観光客向けの接種」が始まっています。中南米からの接種目的の人々が大挙してアメリカを訪れており、コロナ禍でクタクタとなった航空業界にとっても嬉しい需要のようです。また、UberやLyftなどのライドシェアサービスでは接種会場への無料送迎を行っていたり、ユナイテッド航空では接種者に航空券をプレゼントするなど、接種率向上のために様々な取り組みが行われています。
さて、「アメリカでの観光客向け接種」が始まったことを受け、日本からも渡米して接種を受けている人がいる、という情報も多く確認されるようになってきました。
打つのは一回でOKのジョンソン・エンド・ジョンソン製
観光客向けの接種用に使われているワクチンは、1回の接種だけで済む「ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)製」のものです。2度から8度で輸送や保管をすればよく、ファイザーやモデルナ製のワクチンと比べて、超低温冷凍庫などの特別な設備を必要としません。一方で、製造方式は、両社のようにmRNAと最新の製造方式ではなく、ウイルスベクターと呼ばれるものです。日本での治験を実施している一方、供給契約は結ばれていません。
在米経験が20年を超える筆者の知人は「ニューヨーク(NY)では並んで待つだけで簡単に打てる。日本で接種スケジュールの見通しが付かないのなら、どんどん渡米して打てば良いのでは?」と勧めます。また、すでに渡米してJ&J製ワクチンを接種した知人に感想を聞くと、「接種直後に腕に重みを感じ、脂汗が出たくらいで、至って普通の注射だった」と話します。
しかし、日本人が外国でのワクチン接種を安心・安全に受けられるのでしょうか。海外で具合が悪くなった時、言葉のわからないドクターと話すのもドキドキするのに、ワクチンを受けるのにリスクを感じる人がいるのも当然のことでしょう。
そこで筆者は、アメリカやイギリスの医療事情に詳しく、コロナ禍の端緒から各国の感染状況を見守って来た開業医で、航空会社による「機内での非常時対応の医師」認定も持っているハンドルネーム「そら飛ぶDr.」さんに、渡米したワクチン接種旅行への取り組みについて、問題点を検討してもらいました。
そら飛ぶDr.さんは、「コロナ禍という地球存亡の危機にあって、世界のどこかで打てる場所があるなら、打ちに行く選択肢を取ることに否定はしない」としながらも、「実行するなら注意すべきポイント」として次の4つを挙げています。
知っておきたい、接種へのリスク
・J&J社製はアメリカでの承認時期がもっとも最近のワクチンであること。
・アメリカ滞在中こそ、感染対策に気をつける必要があること。
・帰国便搭乗時に熱が下がらず、乗せてもらえないリスクがあること。
・日本国内での接種証明が、どういう扱いになるか不明なこと。
1点目の「J&Jワクチンの承認時期」ですが、「先行承認を受けたファイザーやモデルナ製と比べると、全体的にエビデンスが少なめ」という問題があると言います。ただ、4月には一度接種を止めて、副反応のデータを確認してから接種再開した経緯があること、アメリカ当局が「50歳未満の女性は血栓発生確率が高め」と指摘しているという事実もあります。ただ、「今のところ、接種を停止を検討しなければならないほどのトラブルはみられませんね(そら飛ぶDr.さん)」ということです。
2点目の「アメリカ滞在中での感染対策」については、「抗体ができるまでには、接種後2週間はかかります。せっかくアメリカに行くのだからといって、積極的に遊びまわるのは考えものでしょう。接種を済ませたニューヨークの人々はもうマスクを取って行動しているようですが、感染対策には気を抜かないで欲しいですね(そら飛ぶDr.さん)」。大人数が集まるレストランでの食事などは気を付けた方が良さそうです。日本に帰国した際、感染している可能性がゼロでないことを留意して行動するのが肝要ですね。
発熱は解熱剤でしっかり抑える
「接種のための渡米」で最も怖いのが、帰国便に搭乗する時に起きるかもしれない問題です。そら飛ぶDr.さんはこれを3つ目の問題として提起します。「接種から48時間も経てば、発熱も下がっているはず」とし、「搭乗前に37.5度以上の発熱があったら、飛行機に乗せてもらえなくリスクがありますから、あまりギリギリなスケジュールは組まない方が良い」とアドバイスします。ただ、ワクチン接種後の発熱は、体内で抗体を作ろうとする反応なので「接種直後に多めに解熱剤を飲んでおくと、発熱の苦しみは避けられるでしょう」と話します。
解熱剤は市販のもので良いそうです。「アメリカではパナドル(Panadol)をはじめとするさまざまな解熱剤が買えますが、日本出発前にドラッグストアなどでロキソニンやカロナールを入手して、それを使えば良いと思います(そら飛ぶDr.さん)」。
ちなみに、日本で接種が進んでいるファイザーやモデルナ製ワクチンの接種でも同様のことが起こるようです。そら飛ぶDr.さんは「特に2度目接種後の発熱はキツいですね。医療従事者である私は、もう2度目の接種を済ませていますが、直後には38.7度まで熱が上がりました」と言います。
ワクチンパスポートとの関連はどうなる?
アメリカ当局は、現地での接種者に対して、インターネット上で接種状況が見られる形で情報を提供しています。しかし、J&J製ワクチンは日本では承認申請中であるため、これが日本で接種者として扱われるのかは問題になるかもしれません。例えば、国際線の搭乗時にどうなるのかは未知数です。
これは筆者の私論ですが、「J&J製を認めている国には到着後の隔離なしで自由に入れるのに、日本に帰国した時には14日間の自主隔離が必要」といったことが仮に起これば、なんのためにワクチンを受けたのか、という疑問がもたげてきます。
アメリカのどこでワクチンが打てるの?
5月下旬現在、アメリカではニューヨーク州やカリフォルニア州など20以上の州で観光客向けの接種を行っています。ただこうした対応はあくまで現地の市民向けが優先なので、接種場所などの条件が日によって異なるようです。
そうした中、例えばニューヨーク州は「鉄道ターミナル駅での観光客向け接種パイロットプロジェクトが上々の成果だった」と評価し、州内の空港に改めて接種会場を設置。他国からの訪米接種希望者の便宜を図ると表明しました。
こうした措置がはたしていつまで継続するか未知数なところもありますが、「コロナ禍で海外旅行から遠のいていた人々」にとって魅力的に映ることは否めません。
しかし、忘れて欲しくないことが一つあります。
日本はいまだに変異株の感染を必死になって止めている状況です。そら飛ぶDr.さんは医師のひとりとしてこんなコメントを筆者に託しました。
「あるヒトが安心感を得るために、外国でのワクチン接種を受けること自体は否定しません。しかし、外務省などが日本への帰国者を一人でも減らしたいと在外邦人にも呼びかけている中、外国での接種者による入国時に水際対策に当たる国内の各検疫所への負荷は明らかに増します。検疫中の帰国者へのチェックも強化が進んでいます。『自己責任』という言葉をどうか履き違えないでください」。