亭主がもてなす茶室や4席のバーラウンジ 「ななつ星 in 九州」、9周年の大刷新を水戸岡鋭治氏が語る

クルーズトレインの全国的ブームを巻き起こしたJR九州の豪華観光列車「ななつ星 in 九州」がこの秋、運行開始9周年を機に車内を刷新する。客車7両のうち、現在ダイニングカーとなっている2号車に、イベント用としても使用できるサロンと、九州の銘茶をその場で点てて提供する本格的な茶室を新設。食事は1号車のラウンジで楽しめるようになる。3室のスイートルームを設けていた3号車は、4席のみの贅沢なバーラウンジと、九州各地の工芸品の展示やグッズを販売するギャラリーショップに生まれ変わる。全体の定員は現在の14室30名から10室20名に変更となり、乗客一人ひとりにより寄り添ったサービスが提供できるようになるという。

これまでにのべ17,000人を乗せて九州の食や文化を発信し続けてきた「ななつ星」。リニューアル発表会の場で同社の福永嘉之鉄道事業本部長は、「この列車に誇りと自負を持っているが、同じところで留まっているわけにはいかない。ななつ星の思いや良さを継承しながら、さらに進化を続けていく必要がある」と力を込める。リニューアルのコンセプトや狙いについて、デザインを手掛ける水戸岡鋭治氏が語った。

「とてつもなく贅沢なものを」

――2号車のサロンについて

「1号車に素晴らしいサロンがあるが、食事の前後に過ごす時間がほしいということで2号車にもサロンを作った。(JR九州前会長の)唐池(恒二)さんから『とてつもなく贅沢なものを作ってほしい』とリクエストがあり、私の知る限りでデザインしている」

――茶室について

「前から立ち席のお茶のコーナーはあったが、これだけでは満足できないということで、もう少し本格的な茶室を作った。車内幅が約2メートルしかない中で、通路を確保して残ったスペースは1,300ミリ×1,500ミリ。小さい小さい茶室。そこに亭主が1人、お客様は多くても2〜3人。低い歌舞伎椅子(合引)を置いて、そこで本格的に点てたお茶を楽んでもらう。元々お茶はクリエイティブに、誰も考えていないことを持ち込んでいいという世界。懐かしいお茶の世界と、いまだかつてない新しいお茶の世界を演出できたら素晴らしいと思う」

車内は街並み。レストランがあればショップもある

――3号車のバーラウンジについて

「美味しいお酒と季節の景色をゆっくりと楽しみたいというリクエストをもらった。4人しか入れないが、どこのホテルにも負けない。映画のシーンのような空間で、それぞれの人のためのお酒を提供する。細かいところは検討中だが、楽しくできるといいと思っている」

――ギャラリーショップについて

「車内でもう少し本格的に買い物をしたいという声があった。列車の中は街並みだと考えている。当然レストランもあれば、買い物をできる場所もほしいということで、ショップを作ることにした。次々と地域の素晴らしいものをリデザインして商品化していくので、それを展示するスペースとして相応しいショップをデザインした。どういう商品をつくってどう展示していくかはこれから考えるが、お客様が望むようなものが作れたらいい」

100年経っても走ってるクルーズトレインに

水戸岡鋭治氏

▲工業デザイナー 水戸岡鋭治氏

――リニューアル全体について

「豊かな空間と時間を過ごせるよう設計してきたつもりだが、もっと豊かに、心と体で本当に心地良い空間とはどういうことか追求してほしいとリクエストされ、約1年かけて形にした。あと10年後、20年後にもう一度(リニューアルして)、100年経っても元気に走ってるクルーズトレインになったら嬉しいなと思いながらデザインを進めている。本物は画よりも素晴らしいに決まっているので期待していただきたい」

(画像:Design & Illustration by Eiji Mitooka + Don Design Associates)