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札幌・福岡も「撤退ない」 フィンエアー、ロシア問題と羽田就航を経た日本市場の位置付け【インタビュー】
「我々の歴史に残る、記念すべき日だ」。10月31日に開かれたフィンエアーの東京/羽田〜ヘルシンキ線の就航記念式典で、同社マーケットマネジメント担当バイスプレジデントのミッコ・トゥルティアイネン氏は力を込めた。当初予定していた2020年3月から、コロナ禍とロシア領空閉鎖による二度の延期を挟み、遅れること約2年半。同社にとって待望の羽田就航だった。
弊誌「TRAICY」は2月14日、同社の永原範昭日本支社長にインタビューを実施。羽田線への期待感や、今後の需要回復の見通しを聞いていた。ところが、このインタビューからわずか10日後の2月24日、ロシアのウクライナ侵攻が勃発する。ロシア領空の閉鎖により、欧州〜アジア路線を取り巻く環境は一変し、同社の運航計画は大幅な変更を強いられた。
そこで弊誌は今般、トゥルティアイネン、永原両氏に再度インタビューを行い、領空問題を受けた足元の需要動向や見通し、羽田就航を踏まえた日本市場の展望を聞いた。(前回のインタビューはこちら)
▲フィンエアー マーケットマネジメント担当バイスプレジデント ミッコ・トゥルティアイネン氏
――前回の永原氏へのインタビューから状況が一変した。ロシア領空閉鎖後の動向と、日本路線の今後の見通しは。
トゥルティアイネン氏:全体的な話としては、今年の夏は特に欧州や北米の需要が高まった。日本に関しては、東京(成田)にはコンスタントにデイリー運航していた。貨物の需要も特に日本に関しては高く、運航継続の大きなサポートになっている。コーポレートの需要は継続的に非常に強い。冬スケジュールから2023年夏スケジュールも強い状態が続くと見通している。
――レジャー需要について。永原氏は2月のインタビューで、帰国時の制限が緩和されればある程度戻ると予想するが、パッケージツアーのリードタイムが2か月ほど必要と答えていた。9月に帰国時PCRが廃止されてから2か月経つが、動きはどうか。
永原氏:前回のインタビュー当時はロシアの問題がなかったので、コロナの収束に合わせて需要は戻ると思っていた。2か月のリードタイムでマーケットも動くだろうと。ただ、ロシアの問題が2月末に勃発して環境が変わった。飛行時間が長くなったり、原油も高騰してコストがかかるようになった。ある程度運賃に反映せざるを得ず、燃油サーチャージも上がった。欧州への旅行代金そのものが全体的に上がり、制限が解除された時点で一気に動き出すかといえば難しい状況になった。北米やオセアニア方面は違うのかもしれないが、欧州に関してはまだマーケットそのものが様子見の状況だ。レジャーの動きは我々が思っていたよりも遥かにスローで、今後もはっきりと見通せない。
トゥルティアイネン氏:全体的な感触として、私自身は楽観的に見ている部分がある。実際、昨日到着した羽田の初便に関しても190名弱、日本発に関しても170名弱のお客様にご利用いただいた。非常にいい数字と考えている。ただ、この2年半の環境変化で、先読みをするのが非常に難しくなった。
――ロシア問題が長期化しているが、率直にどう捉えているか。
トゥルティアイネン氏:領空閉鎖はまだしばらく続くと見ている。その中で我々として何ができるかを考えながら、どこに飛ばすことで利益が出せるかは日々検証している。
――領空閉鎖を受けて新たな経営戦略を発表した。アジア路線における戦略のポイントは。
トゥルティアイネン氏:新たな戦略は、北米・アジア・インド・中東の4つのエリアのバランスをいかに取っていくかということが中心になっている。アジアの都市に関しては、東京、ソウル、上海、香港、シンガポール、バンコクは我々にとって長い歴史があるルートであり、飛び続けようと考えている。羽田にデイリー運航することも、(JVを展開する)日本航空(JAL)のネットワークを使って日本全国をカバーできるという意味で、アジアでの戦略に含まれるものだ。
――これまで日本市場の重要性を強調してきた。新戦略でもこの位置付けは変わらないか。
トゥルティアイネン氏:40年の歴史というのは我々にとって重要だ。日本の立ち位置は変わらないと強く言える。
――東京と大阪に客室乗務員のベースを置いているが、動きはあるか。日本人の採用再開の見通しはどうか。
トゥルティアイネン氏:日本のマーケットにコミットするという点で、日本人のキャビンクルーが機内にいるということは、特に言葉の面で重要だと思っている。日本にベースを置くということは変わっていない。
採用再開に関しては、予定していた週40便運航(※)ができるようになったときに、マーケットの状況に合わせて適切な人数を検証した上で考えることはあるかもしれない。現在の週9便の状況では考えていない。
※フィンエアーは当初、今年の夏スケジュールで日本路線を週40便まで増強する計画を示していたが、渡航制限の継続やロシア領空閉鎖を受けて3月に取り下げている。
――羽田線について。最大のメリットはJAL国内線との接続ということだが、その他に成田と比較したときのメリットは。
トゥルティアイネン氏:都心に近いところが何よりも魅力だと思う。日本人のみならずインバウンドも羽田を使いたいという需要は高い。
――2020年の計画と異なり、JALと近いスケジュールになった。どのような経緯か。
トゥルティアイネン氏:まず、羽田のスロットの獲得の難しさがある。我々として欲しい時間帯があっても、それがなかなか取れない。正直なところ、もう少し遅い出発がいいと思っていた。
もう一点、ネットワークキャリアとして、ヘルシンキのハブをどう活かすが一番のポイントだ。ヘルシンキにはモーニング、メイン(15時〜17時)、ミッドナイトの3つのバンク(出発便が集中する時間帯)がある。ロシア上空を飛行できない今のスケジュールでは、モーニングバンクに着くスケジュールを作るのが最適だ。モーニングバンクに当てることで、ほとんどのヨーロッパの都市に乗り継ぎで行けることが一番の強みになる。羽田行きに関しては、メインバンクで出発するのがベスト。それに合わせて現在のスケジュールになっている。
JALと近い時間帯に飛んでいるのは成田時代から変わらない。同じ時間帯であることでお客様の取り合いになるという考えは全くない。2便飛んでいても充分需要に応えられるキャパシティーであると思っている。
――羽田線には客室を刷新した新仕様のエアバスA350型機を投入した。日本市場重視や羽田線への期待感の表れか。
トゥルティアイネン氏:日本のマーケットに対する熱意は変わらず強い。羽田就航が決定したとき、我々が持っているベストなプロダクトを投入するということは決めていた。
▲シェルデザインの新型ビジネスクラスシート「エアラウンジ」を導入した新客室仕様のエアバスA350-900型機
――一方で成田線を週2便残し、デイリー運航の羽田線と合わせた週9便が現状でのベストと捉えている。今後、東京線の増便が見通せた場合は成田線を増やすのか。それとも羽田線に完全移管する考えもあるのか。
トゥルティアイネン氏:状況が急転すればその話はその時にさせていただきたい。現状では週9便というそれ以上のコメントは難しい。
――札幌/千歳・名古屋/中部・大阪/関西・福岡の4路線の運休継続については、ロシア領空閉鎖の影響によるものと発表している。コロナの状況は関係なく、領空問題が解決すれば復便できるのか。
トゥルティアイネン氏:まだ状況が見えない中ではコメントしにくい。状況をモニターしながら考える。現時点では東京への週9便がベストで、それ以上のことは申し上げられない。
――撤退という考えはないか。
トゥルティアイネン氏:全くない。現状で東京への週9便がベストという考えで、他を一切やらないという意味ではない。
――コロナ禍以前は、日本の就航都市をさらに開拓する構想があったと聞く。諸々の問題がクリアになったとき、そうした構想はどう動くか。
トゥルティアイネン氏:現実を見た上での話に留めさせてもらいたい。希望を話して期待を持たせてもいけないと思う。
――待望の羽田就航を実現し、2023年には日本就航40周年を迎える。未だ様々な問題がつきまとうが、日本市場の今後の展望は。
トゥルティアイネン氏:先ほど希望は申し上げにくいと話したが、個人的な希望としては、日本におけるネットワークを今以上に戻したいと思っている。(取材日:2022年11月1日)