「破綻後の社員の結束が強まった」 JAL式ラジオ体操、取り組み10年

夏の風物詩の一つ、ラジオ体操。子どもの頃、早起きして眠い目をこすりながら参加した思い出がある人は多いはずだ。日本航空(JAL)では10年前の2013年7月から、社内の健康活動の一環としてラジオ体操第一を取り入れている。

7月下旬、東京・天王洲のJAL本社では、客室乗務員のチアダンスチーム「JAL JETS」によるお手本を前に、グループ社員約50人がラジオ体操で汗を流していた。JALで行われているラジオ体操は、普通のものとはちょっと違う。一つひとつの動作をきびきびと“本気で”行うのが特徴だ。最初の伸びの運動では「背筋を伸ばしてお腹をへこませ、かかとは床につける」、胸を反らす運動では「顔は正面に向けたまま。手のひらは天井に向けて胸を反らす。指先は遠くに伸ばす」などと、それぞれの動作のポイントをトレーナーが細かく指導する。その名も「“本気の”ラジオ体操」である。動き自体は普通のラジオ体操と同じでも、手足の先まで気を使いながら一通りやってみると、意外と筋肉や関節を使っていることが実感できる。

この体操を始めたのは、グループ社員の健康や体調の維持管理を担う健康管理部(現・ウエルネス推進部)でフィットネストレーナーを務める本田真次さんと黒鳥信子さんだ。何か社内の模範になる健康活動の取り組みを始めようと考えていた2人は、「日本の学校に通っていた人なら誰でも馴染みがある」、「3分間だから勤務時間や休憩中にも簡単にできる」とラジオ体操を提案し、「せっかくなら本気でやろう」と、「“本気の”ラジオ体操」と命名した。

「普及にはまず自分たちから」と、まずは部署内で朝礼の時間を使って取り組んだ。2014年にお手本DVDを制作して全国の支店にも配布すると、「本気でやってみると全然違う」と徐々に社内でも評判になり、欧州や北米など海外支店にも広まっていった。近年では新人訓練や入社式でも取り入れられるようになったほか、地方の小中学校や五輪関連のイベントなど社外で披露する機会も増えた。

肝心の効果は「正しくやれば全身運動になり、効果てきめん」(考案当時のJAL産業医)と折り紙付き。実践した社員からは「肩こりがなくなった」「マッサージに行く回数が減った」などと好評の声があがっている。

ウェルネス推進部の大海尚美部長は、「社員の結束力、一体感が強まった」と健康増進だけでなくコミュニケーション促進にも繋がっていると評価する。「(ラジオ体操を始めた)10年前は破綻直後。社員がどこか後ろ向きだった中、全員で同じことをやり続けられたことが財産」と振り返る。

本田さんと黒鳥さんは「“本気の”と付けたのがよかった。ラジオ体操の本質を知ってもらい、広まるきっかけになったのでは」と考察する。最近では香港やパリの支店からもセミナーを開いてほしいという要望が届いているといい、「最初は部署内で継続できればいいと思っていたが、まさか海外まで巻き込んで広がるとは」と目を見張った。

今や海を越えて親しまれているJAL式ラジオ体操。どこか遠いの国の空港でも、お馴染みのあのメロディーが流れているかもしれない。