イギリスのワーホリ枠が4倍に、現地に雇用の受け皿はあるのか【コラム】

イギリス

日本とイギリスの両政府はこのほど、“人的交流の再活性化に向けた協力”の一環として、イギリスへのワーキングホリデー(いわゆるワーホリ)にあたる「Youth Mobility Scheme(YMS)」の日本人の受け入れ枠を現在の1,500人から6,000人まで広げることで合意しました。

18歳から30歳までを対象としたこのプログラム、受付枠が2024年から従来より4倍に広がることで、これまで抽選に何度もトライしながらも落選の憂き目にあっていた人々にも、ワーホリでのイギリス渡航の夢が実現する訳です。

しかし、イギリスに行ったら素敵な世界が待っているのでしょうか。長期にわたって現地で暮らす筆者が、ワーホリで渡英した皆さんの暮らしぶりを通じて知った状況から、今後の展望を考えてみることにしました。

最低時給は2,000円だが物価は高い

日本では過去30年も賃金水準が上がってない、しかも日本円の価値はダダ下がりーー。

こんな背景から、時給がより高い国へ働きに出ようという気持ちが生まれるのは当然のことでしょう。加えて、コロナ禍が明けてもなんとなく閉塞感を感じる日本の暮らしに嫌気がさす、という感想もよく聞くようになりました。

ワーホリ制度を利用しての渡航なら、留学しようが働こうが、現地で何をしても構いません。イギリスなら本場のクイーンズ、いやキングズイングリッシュが学べますし、バイトしながら生活費を稼ぐこともできます。目下(23年11月現在)の最低時給は10ポンド強、つまり円に換算すると約2,000円と賃金の高さも魅力的です。

賃金が高い理由はすなわち、物価が高いことの裏返しとも言えます。日本は世界の先進国の中でも異常なほど外食費が安く、コンビニも発達しているので自炊しなくてもやっていけます。ところがイギリスの外食費は絶望的に高いです。パブで食べるイギリス名物のフィッシュ&チップスは最低15ポンドですから3,000円弱、ビールでも飲もうものなら4,000円を超えます。マクドナルドのバリューセットでも、約8ポンドしますから、1,500円を超えます。

ワーホリビザを取る際、”当面の所持金”として最低2,530ポンド分の預金を用意すること、と定められていますが、このお金は住処を見つけて、初月の家賃と敷金に当たるデポジットを払ったらほとんど残りません。すぐに”定住の地”を見つけられれば良いですが、それでも最初の数日間はどこかの宿泊施設に泊まって家探し、職探しとなるとさらにお金が出て行きます。おそらく、イギリス到着時に100万円くらいの手持ち資金があっても十分とは言えません。

働き口の確保が最大の問題

では、日本人がイギリスに来ていきなり働き始められるのでしょうか?

筆者はこれについて「ノー」と言わざるを得ません。現状はこんなような状況です。

例えば、在英日本企業での就業を目指しても、近年はいわゆる「現地化」が進んでいて、イギリス人をはじめとする欧州人が勤務し、日本人のプレゼンスが徐々に落ちてきています。それに引っ張られる形で、日本食材店や日本料理レストランも現地人相手の仕事が増えましたから、「かなりの英語力がないと働けない」のが現状です。ですから、「(英語はあまりできないけど)日本人としてのアドバンテージを活かして職を得よう」というプランでは、仕事にありつくのは相当難しいーーと考えるべきです。

日本語メインでどうにかなる、という仕事もあるにはありますが、そんな雇用枠はせいぜいロンドン市内に年間で3ケタあるかないかという規模感です。定期的に求人募集が掛かるわけでもないですし、タイミングでうまく仕事に就けるかどうかは運次第、というところでしょうか。

とはいえ、多くはないですが、ワーホリ枠で渡英した日本人の若者の中にも「この人は成功した」という事例があります。「これは工夫した!」と筆者が感じた例を紹介しましょう。

日本では就職する際、大学新卒枠で入るのがメジャーな方法です。より良い企業に就職するために、大学在学中に休学して、イギリスへのワーホリ渡航を実行。ロンドンで現地企業に就職し、ビジネスの習慣と英語をばっちり学んでから復学しました。この方は大学在学年数がトータル6年かかったものの、誰でも知っているような大手企業へ新卒枠で就職を果たしました。

こんな例もあります。ワーホリ渡航を準備するさなかに、日本で働いていた会社の取引先に然るべき方法で就職を交渉。たまたまその取引先が日本事業への拡大を計画していたタイミングだったこともあり、円満に転職する格好で渡英できたというわけです。

日本食ブームに乗った雇用はあるか

イギリスのワーホリ枠大幅拡大は良いニュースかもしれません。しかし、枠を獲得しビザを取ってやって来たイギリスで、現地事情に不慣れな日本人が就職市場からあぶれる姿をあまり見たくはありません。

ひょっとしたらイギリス政府は、ブレグジット(EU脱退)とコロナ禍で人材不足傾向にある業界へのテコ入れのため、日本人の若者を当てがおうとしているかもしれません。それがレストランやショップスタッフなのか、はたまた農業従事者なのかーー。

確かにイギリスではいま、日本食が大ブーム。これまで予想もしてなかった新しいビジネスや雇用先に日本人が活躍する場が生まれたら、そんな嬉しいことはありません。たくさんの若者が日本からやって来ることで、新たなイノベーションが起こることを期待したいものですね。