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ブッキング・ドットコムの支払い遅延問題、炙り出された宿泊業界の現状【永山久徳の宿泊業界インサイダー】
ブッキング・ドットコムの宿泊施設に対する支払い遅延問題が一般ニュースにも取り上げられるに至り、多くの関係者から意見、コメントを求められたが、単に一企業を糾弾するスタンスは取らない。むしろ、問題によって炙り出された宿泊業界の現状を確認したい。
宿泊事業者にとって、支払いの遅延はとても大きな問題だ。従業員の給与や仕入れに対する支払いよりも、宿泊料金の収受が後になれば理論上宿泊施設単体での運営は行き詰まる。いわゆる直予約を重視する宿泊施設が多いのは、送客手数料がかからないということだけではなく、早期の入金が見込まれることも大きな理由だ。かといって直予約だけで成り立つ宿泊施設は多くは無く他の集客システムにも依存する。
中でも旅行会社やオンライン旅行会社(OTA)などの販売力は強力で魅力的だ。しかし、他社に販売を依存することでそれぞれのシステム内で競争が発生し、負けてしまうとオールorナッシングにもなりかねない。それを避けるために宿泊施設が取るべき手段は販売チャンネルの分散化しかあり得ない。
つまり、売上の何割をも一つのOTAが占める状態は経営の観点からは決して健全ではないと考えるべきだ。ターゲットを絞り込むことで過半数を1社に依存している施設も存在するが、そのメリットと同時に大きなリスクを背負っていることを理解した上で集客を行うべきだ。今回被害の大きかった宿泊施設では深刻な資金不足が発生しているとの報道もあるが、いくら人気サイトだからといって、ブッキング・ドットコムにそこまで依存していたのであればリスクヘッジが不足していたと言われても仕方がない。
また、今回のケースでは支払い遅延のトラブルが発生したと気づいた時点ですぐに部屋を引き上げることもできたはずだ。私がOTAで海外のホテルを予約しても、ホテル側の都合で一方的にキャンセルされるケースが一定比率で存在する。そのような仕組みがあるのだから、自己防衛のためにも傷が広がる前に販売をストップさせる社内ルールも必要であっただろう。そうすれば数か月分の売上が焦げ付くことも無かった。もしこれが国内の旅行会社による遅延であれば、ほとんどの宿泊事業者は、前振込や現地払いを要求したり予約を停止したり、何らかの形で取引を制限してきたはずだ。ブッキング・ドットコムが著名なサイトだから対策を取らなかったという理屈は通らない。
そして、今回の問題を宿泊施設からヒアリングしていくと、いくつかの傾向が見えてきた。ひとつは、支払遅延は世界的に起こっていると言われているが、アジア圏に偏在しており、その中でも日本におけるトラブルが大多数であること、支払額の大小には傾向が見られないこと、そして、日本の金融機関の種別によって遅延の傾向が異なることだ。簡単に言えば、メガバンクよりも地方銀行、地方銀行より信用金庫などの小規模金融機関の口座への送金が滞っているケースが多くなっている。さらにいえばゆうちょや農協など日本独自の特殊な金融機関を送金先に指定している宿泊施設も被害の比率が高いように見える。