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驚愕の「トルクメニスタン200ドル激安ツアー」 謎に満ちた2泊3日弾丸ツアーの全貌(後編)
大統領が目の前に…
ユルタとよばれる中央アジアの移動式テントで食事を振舞われている途中、「みなさん外に出てください」と促された。プラントの式典に出席した大統領の車が目の前の道を通るのだという。
ツアー参加者はもちろん、それまでパフォーマンスしていた何百人のトルクメニスタンの人々もすべて沿道に向かい、車列がやってくるのを注視する。大統領の乗る(もちろん)白い車は3台連なり、そのどれに乗っているのかは分からない(無論テロ対策である)。すると、我々の会場の目の前にピタッと止まった車の窓ガラスがするすると開き、ベルディムハメドフ大統領その人が姿を現した。拍手喝采が上がる。
ベルディムハメドフ大統領というのは、競馬をやっては落馬したり、孫とラップを演奏したりと、実に「独裁者」っぽくない人物なのである。
Turkmenistan's president performs in rap video with his grandson
式典の帰り道とはいえ、大統領の姿まで見られたのも、こんなツアーである。
そして地獄の門へ
赤信号は無視してパトカー先導。アイス食べ放題で大統領まで挨拶してくれた。それだけでお腹いっぱいなのだが、この日の午後には車で往復10時間以上かかる「地獄の門」まで行ってしまうという超強行軍が待ち構えていた。
「地獄の門」というのは通称であり、正式な名は「ダルヴァザ」。1971年に天然ガスの調査をした際に落盤事故が起こり、巨大な穴が地表に空いてしまった。吹き出てくる有毒なガスを食い止めようと火をつけたのはいいものの、その後火が消せなくなり、38年にもわたってひたすら地下で火が燃え続けているという漫画のような本当の話である。その景色が絶景として話題を呼び、近年はとりわけ旅行者に注目されるようになった。今回のトルクメニスタン行きに即乗ってきた知人の佐瀬君も開口一番「ダルヴァザはツアーに入っているんですか?」と聞いてきた。
ダルヴァザは首都のアシハバードから北に260キロ。まわりには何もない砂漠の平原である。我々ツアー客を乗せたバスの前にはやはりパトカーが全行程先導することになった。
ダルヴァザへの道は遠く、途中はガソリンスタンドでのトイレ休憩くらいしか楽しみがない。そこでもビールは売っていないので酒飲みにはつらい道中となった。だが、今回のトルクメニスタン行きのツアー参加者は戦闘能力が高い。参加者の一人がこのガソリンスタンドでドルが現地通貨のマナトに換えられることに気づいたのだ。公定レートだと1ドル3.5マナトなのだが、ここでは15マナト。公定だとビール1本300円のところがいきなり70円で済む勘定である。だが、散財しようにもホテル、レストラン、移動のすべてが支払い済みなので、正直両替の成果を発揮できるところがほとんどないのが実情だった。
ダルヴァザへは大型バスでアクセスできないので10キロほど手前でワンボックスに乗り換える。だが、このワンボックスはいったいどこから手配してきたのか。今回の旅は何かと謎が多い。ちなみにバックパッカーはメインロードのチャイハネで降り、そこからGPSを頼りに歩いていくらしい。暗い時間は地下からの火で暗闇に光り目印になるが、帰りはそれが何もないので難しいとか。
ダルヴァザは思っていたよりも小さな穴であった。かつてより火の勢いは弱まったといわれているが、それでも風向きによっては下を覗くのがしんどいほどの熱風が押し寄せる。今年になってからか、柵が設けられてしまったが、みな思い思いに写真を撮っている。
ダルヴァザには鳥がいた。その鳥が何度も火口へ突っ込んでは離脱していく。どうもそこに虫がいるかららしいのだが、虫は光を求めてここに集まってくるのか。我々にとっての「地獄」も虫にとっては貴重な光源なのかもしれない。
ダルヴァザのクレーター近くのテントで夕食をとり、日没後再びクレーターへ。現地を午後10時30分に出たバスがホテルに着いたのは午前3時を回っていた。翌朝は朝食後、午前9時に空港に向かうという。いったいどんな強行軍なんだよ…。
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200ドルという価格がなければおそらくトルクメニスタンに行くことはなかった。そういう意味ではまったくの偶然といってもよい。だが、そのおかげで短いながらも数奇な体験をすることができた。トルクメニスタンで出会った人たちとはその後、フェイスブックで繋がり、打ち上げには14人も集まった。
その後でニュースで、アシガバートが世界で最も生活費の高い都市にランクインしたことを知った(これは公定レートでの換算なのだろうが)。天然ガス一辺倒の経済は地域的なリスクをともなう。この国が今後観光地として成功するかどうかは分からないが、ごく短期間滞在しただけにもかかわらず、世界中のほかの国にはない強烈なインパクトをもたらした。それはトルクメニスタン政府の意図したものではないのかもしれないが、案外意図せざる結果のほうが旅人にとって面白いものなのである。
また、この国に足を運ぶのがいつになるのかは分からない。ただ、2泊3日とはいわずに次回はもっと滞在したい。VIP扱いでなくていいから、もっと現地の人と知り合いになりたい。そして、この世界中のどの国にも似ていない国について、もう少しだけ理解したいと思い、羽田に向かったのだった。