”詐欺的”と指摘のインド・OYOホテル問題が宿泊業界に投げかけた課題【永山久徳の宿泊業界インサイダー】

またこれもJALFが指摘したことだが、新興企業特有の問題として組織が構築されるより前に急過ぎる展開を始めていたことは否めず、セールス担当に自分の商品が売り込み先のホテルの経営改善に寄与するかどうか分析する能力が備わっていたかどうかも疑問だ。その分、営業をかけられたホテルは、OYO加盟に際して徹底した試算と契約書の読み込みが必要となるわけだが、どうも本質的な契約内容すら理解できていなかった経営者もいるように思われる。そもそもFC料は決して低額ではなく、当然ながら既存顧客にも旅行会社経由の送客にも課金される。さらに増収分にはオーバーチャージもかかる上、設備投資を受けたものもそこから早期に回収される料率が設定されているのだから、その諸条件を飲んでもなお、増収増益になる可能性のあるホテルというのは立地や客層により自ずと浮かび上がってくるものだ(現に収益が増加しているホテルもある)。OYOのセールス担当にそういうホテルを探し出すスキルが無い上、ホテル経営者にも収支を試算するスキルが無かったとすれば、遅かれ早かれこのような悲劇が起こることは想定できただろう。OYO側の契約不履行が告発されたことでこのビジネスの問題点が表面化したが、問題化しなかった場合このようなミスマッチが全国的に拡大していた可能性は否めない。

しかし、このような問題が起こったとはいえ中小ホテルにホテルブランドを付与するビジネスモデルそのものが否定されたとは思わない方が良い。OYOは今後の宿泊業界を大きく変革させる可能性を示したという事もできるのだ。今の日本ではホテル新設ラッシュの陰で廃業も加速している。廃業数の最も多いのが中小ホテル旅館だ。原因は3つあり、(1)インバウンドの増加を相殺する形で国内旅行者が減っており需要はほぼ横ばいであるのに客室数が激増して営業無しでの集客が不可能になったこと。(2)法律上やIT化などで古い施設に必要な設備投資が増えているのに対応できていない事。(3)後継者不足や求人難で増えた業務に手が回らない事。にほぼ集約される。宿泊業界で多数を占めていた三ちゃんビジネスホテルではもはや満足に集客も運営もできない時代なのだ。

中・大規模ホテル旅館は大手チェーンの傘下に入る選択肢もあるが、小規模ホテル旅館は電話だけで毎年来てくれたお得意様が高齢化で途絶えた瞬間、廃業するしか選択肢が無くなってしまっていた。しかもゲストハウスや民泊が同じ土俵で需要を取り込んでしまった。そんな閉塞感の中で登場したホテルブランドFCというビジネスモデルは中小ホテルにとっては一筋の光明でもある。IT化投資をしたくても手が出せないところに予約から決済までを統合して管理してくれる端末を貸与してもらえる。営業などしたことの無いホテルでも販売戦略を立てて販売してもらえる。しかも先行して客室の設備投資までしてもらえる。しかもブランドを冠することができる。中小ホテルが採るべき生存戦略として現時点でこれ以上のものは無いだろう。かつて地方のパン屋が「ヤマザキパン」の看板を冠して商売したように、「独立店以上チェーン店未満」のモデルは今後の主流になる可能性すらある。今回は双方がビジネスの均衡点を見つける前に走り出してしまった拙速さと、OYO側の不誠実と言わざるを得ない対応が問題となったのであり、ビジネスそのものの方向性は決して間違ってはいない。

日本の中小ホテル業界がこのまま絶滅へ向かうのを食い止めるために、このビジネスモデルが健全な形で再構築されることを願う。それが新たな複数のプレーヤーであれば言うことは無いが、OYOがその中に加われるかどうかはOYO Hotel Japanの本件に対しての対応如何にかかっている。引き続きOYO Hotel Japanの動向に注視したい。

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