オンライン旅行会社の”脅し”で完全勝利、その背景と問題点【永山久徳の宿泊業界インサイダー】

「消費者を人質に取ったOTA(オンライン旅行会社)の完全勝利じゃないか」と旅行業界関係者が吐き捨てるように言った。

Go To トラベルキャンペーンについて、一部のOTAが運営する予約サイトで、一部地域の割引販売を停止したり、割引回数を制限したり、金額上限を引き下げるなどの動きを見せたことに対し、国土交通省が迅速に予算の追加配分を表明したことに対してだ。

関係者に対するヒアリングなどによると、Go To トラベルキャンペーンではそもそも、事業者の過去の実績や販売計画を基に予算配分を決めていた。また、その予算は事業者が好きに使って良いものでもなく、地域の偏りが生じないよう目的地別に枠が設けられていた。さらに、巨額の予算をコントロールするため、一括での割り当てではなく、期間をいくつかに分けて検証しながら配分する仕組みとなっていた。そのため全体の消化率にはまだまだ余裕があるのに枠が足りないという現象が起きてしまった。

その原因は東京発着旅行の解禁や、人気地域への偏りが見られたからだと説明されているが、これは本来の制度設計が守られているための現象であり、説明としては不十分である。今回のゴタゴタを検証するにあたり、もう一度Go To トラベルキャンペーンの目的と経緯をおさらいしておきたい。

キャンペーンの目的はもちろん経済循環である。経済的、時間的に余裕のある人に対し刺激を与えることで、旅行業界と宿泊業界を中心にその前後に無数に関与する交通、飲食、購買、その他のサービスにお金を何重にも回転させ、雇用と経済を維持させる政策だ。理論上は日本の全産業の利用や消費に関係する需要喚起策であり、前倒し実施には大きな意味があった。しかし、制度設計や事務局の整備など見切り発車で積み残した問題も多く残っており、いくつかの混乱を招いてしまったが、最も大きな課題は「国民の間で新型コロナ対策と理解に対するコンセンサスが取れていない」ことであった。その結果、Go To トラベルキャンペーンは「少人数で、近くの旅行から楽しもう」というニュアンスを前面に出してのスタートとならざるを得なかった。

そうなると、前述の「過去の実績や販売計画を基にした予算枠配分」には相当なずれが生じる。団体旅行や新幹線、飛行機やバスを利用した長距離旅行を得意とする事業者にブレーキをかけたまま、宿泊商品単品販売を得意とする事業者にアクセルを踏ませたのだからスタート時の消化率に大きく差が出るのは当然のことだ。少人数の宿泊単品販売は既にOTAの土俵であり、キャンペーン手続きの簡便さもあって利用者がOTAに集中することは予想できたことだろう。恐らく現時点でOTAとそれ以外の旅行会社の販売比率は数倍の圧倒的な差がついているはずだ。なので、予算不足が見えてきたOTAが「このままでは枠が不足するので対応して欲しい」と声を上げるのももっともなことであろう。

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