低価格の王様? 1泊1,000円の西成のホテルに泊まってみた「ホテル ダイヤモンド」【はんつ遠藤の大阪・西成C級ホテル探検(4)】

トイレは同フロアにあった。男女も分かれていて、男性用には、なんとウォシュレット付きのタイプが3つも設置されていた。

また同フロアには、ミニキッチンも。ガススタイルの“ごとく”が2つあり、醤油や塩なども置いてあるところをみると、長期で宿泊している方もいるようだ。

さらに1階へ向かえば、コミュニティルーム的な部屋も。そこには冷蔵庫、電気ケトル、電子レンジ、オーブントースターなどもあり、至れり尽くせり。100円から購入できる自動販売機まで設置されていた。

次はバスルームだ。男性用は浴室、女性用はシャワールーム(2部屋)という構成。両方とも午前6時~午後11時まで(男性用は午後1時~2時までは清掃)。男性用は火曜と土曜は浴槽にお湯が張られるが(午後4時~11時)、その他の曜日はシャワーのみ。今回は金曜に宿泊ゆえにシャワーのみだった。

フロントで部屋のキーと交換で、バスルームの“ロッカー”のキーを受け取る。現在はコロナ禍ということもあるのだろう、ロッカーは5か所のみ使用可だったので、最大で5名のみということ。とはいえ、シャワーなどが使用できる場所が3か所しかないのが、少し気になった。前述のとおり、ホテルは約200室あるので、満室時は大変そう。

ここで、僕はひとつだけ失敗をしたことに気づいた。あらかじめ、ホテルには歯ブラシやシェーバーはおろか、タオルすら無いという事を学んでいたので持参していたが、浴室にはシャンプー、リンスだけでなく、石鹸すら無かった(全てフロントで購入可能)。

仕方なくシャワーのみ浴び、退出。ドライヤーは着替え室に無く、フロントで借りて、ロビーかコミュニティルームで使用できるそうだ。

ちょうど大阪は府全域に不要不急の外出自粛を呼びかける「医療非常事態宣言」を発出中だった。僕は雑誌の連載もあり、必要火急ゆえに訪問しているわけだが、西成の夜はどうなっているか気になったので、外出することにした。

午後8時半。驚いた事に、飲食店の多いアーケード街は、なかなかの活況を呈していた。

最近は日雇い労働者が集まるような立ち呑み店よりも、一般人や若者向けの立ち呑み店が続々とオープンしている。それととても増加したのがカラオケ居酒屋。アーケードを歩くと、あちらこちらから歌声が聞こえてきた。

その中で、とても気になった1軒が「酒房 豊後(ぶんぷく)」。創業以来約半世紀。日雇い労働者や若者相手ではなく、むしろ地域に根づき、上質な飲み客のファンが多い大御所クラスの人気店だ。

コの字型カウンターのみの店内には、3人連れと一人客。通常どおりの落ち着いた雰囲気だが、以前に比べれば、とても空いている。

通常メニューのほかに、ホワイトボードには本日のお造里(おつくり)、小鍋、野菜料理、肉料理、魚料理の数々。

余談だが居酒屋で紙ではなく、布製のおしぼりが出てくるところにハズレは少ない。とりあえず生ビールをオーダーし、次にネタケースにあった鯨のベーコンも。大阪では鯨料理がメジャーだ。“おばけ”(さらし鯨)なども気軽に立ち呑み店にあったりする。

それをアテ(つまみ)に飲みつつ、僕はご主人に聞いてみた。

コロナで、お客さんは少ないですか?

「若い人は出歩いているけど、うちに来るのは年配の方が多くて夜は出歩かなくなったから、少なくなったねぇ」

なるほど、やはり年代でとらえ方が違う。だが、お店は通常どおり10時ごろまで営業しているそうだ。

「中央区とか北区とかなら営業補償が貰えるけど、うちら西成区は貰えないんですよ」とご主人。

それにしても、西成で半世紀は凄い。

怖くないのですか?と、僕。

「この界隈は暴れるような人は殆どいないんですよ。むしろ、昔は暴力団が3つくらいあって、逆に街を守ってくれてたしね」

なるほど、僕は週刊大衆で連載もしているので、そちら系の方々の話はよく耳にする。むしろ彼らは一般人には手を出さず、街を守るということも確かに聞いた。

すると、一人客の方が言った。

「今は暴力団も弱くなった。そのせいで、外国系の人が経営するカラオケ居酒屋がどんどん増えてて、逆に困るよ」

僕は酎ハイレモンも追加して、少し語らい、1,400円を払って9時半ごろ店を後にした。

まだ飲み足りなかったので、コンビニでお酒とおつまみを買い、ホテルへと戻った。

この手のホテルでは夜11時には入口のシャッターが閉まるところすらあるが、「ホテル ダイヤモンド」は、実は門限が無いのも魅力だ。とはいえ、まだ10時前。

1.5畳の部屋は、最初こそ狭く感じたが、スマホでイヤフォンを用いてYouTubeの音楽を聴きながら飲んでいたら、すぐに通常の部屋と同じ快適さになった。とはいえ、さすがに12月で暖房設備がない部屋は少々、寒い。僕は外の恰好そのままで布団に入り、眠った。

そして翌朝。チェックアウトは朝9時まで。僕は部屋のキーと引き換えにデポジットの1,000円を受け取り、8時すぎにホテルを出た。

1泊素泊まり1.5畳一間、冷暖房なし、バストイレ共同で、1,000円(税別)。夏場で無ければ、僕は十分に「あり」だと思った。

■プロフィール
はんつ遠藤
1966年東京生まれ。早稲田大学卒。不動産会社勤務を退職後、海外旅行雑誌のライターを経て、フードジャーナリスト&C級ホテル評論家に。飲食店取材軒数は1万軒を超える。主な連載は「週刊大衆」「Ontrip JAL」「東洋経済オンライン」など。著書は「取材拒否の激うまラーメン店」(廣済堂出版)など27冊

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