一日一部屋のみ1,500円が残っている不思議な「ホテル和香」【はんつ遠藤の大阪・西成C級ホテル探検(7)】

そんな事を思いながら部屋に戻り、布団の上に座れば、畳と畳の間に段差があったり、少し離れていたり。小さなテーブルとか畳にも前の人のと思われる髪の毛が落ちていたりするので、そんなに丁寧な掃除は行き届いてないのだろう。

「まぁ、古さゆえの低価格かな?」と思いつつ、ノートパソコンを開いて仕事を始めたが、ふと視線を感じたのでテレビの下の段を見たら、逆さまだがアイドルらしき若い女性が大きく映った新聞紙が貼ってある。どうやら、修繕のようだ。

「まぁ、そんな事もあるな」と西成歴が長い僕は、動ぜずにまた仕事を始めたのだが、しばらくしてふと反対側の布団の上を見たら、小さな点がゆっくりと動いている。

もちろんダニなのだが、そんな事は良くある話。僕も以前、朝に起きたら3か所ほど刺されていたことがあるが、低価格ホテルでは仕方のないことだ。

動ぜずに退治。しばらくするとまた動く点を発見し、また退治。さらにしばらくするとまた発見し、退治。

そして、また視線を感じ、反対側を見ると、今度は布団の上に5ミリくらいの丸い黒い虫が!

これには動揺した。急いでFacebookに書き込めば、友人からURL付きで「南京虫(トコジラミ)では?」という返答が来た。

まさにそれだった。相手も動揺しているのか動かないので、退治するのも簡単。ホッと、した。

が、また出現。また退治。その間、動く点も何匹も出現。何度も退治。

南京虫には最初は動揺したものの、3匹目になると僕も慣れてきて、じっと眺めてみた。すると、丸っこくて、触覚が左右にピッピッと揺れたりして、歩いても動作が鈍くて案外と可愛い(結果的には退治するのだけれど)。

だが、そんなことを言っている場合ではない。ダニならともかく南京虫に刺されたら大変。結局、午後6時半から8時半の2時間で、ダニを20匹、南京虫を5匹退治したところで、僕は負けた。

「このペースで朝までいたら、一体、何匹になるんだろう?」。

正直に言おう。僕は、逃げ出したのだ。

ノートパソコンやスマホ、貴重品くらいを袋に入れて、ホテルを出て、隣の駅にある、楽天トラベルで見つけた1泊素泊まり2,240円(同)のホテルに逃げた。

そのホテルはとても素晴らしかったので、次回にでも報告させていただこうと思うが、僕は海外旅行雑誌のライターやフードジャーナリストになって20数年、合計で1,000軒以上のホテルに宿泊しているが、とにもかくにも、チェックイン後にホテルを変えたのは初めてだ。

ここで断っておくが、決して勘違いをしないで欲しい。ホテル和香は、通常はコスパも良く、至れり尽くせりの感もある素敵なホテルなのだ。今回が、たまたまだったのか、1,500円という低価格だったからか、とにかくこれが全てではないという点。西成に限らず、低価格ホテルではよくある話。初心に帰ったというか、久々にとても勉強になった。

もし、この手の部屋が苦手なら、畳ではなく洋室で、しかもベッドの安宿を選んだほうが良いと思われる。ちなみに今回は502号室。

翌朝、僕は約30分かけて徒歩でホテルへ戻った。

なぜあの時にチェックアウトをしなかったのか?と思われるかもしれない。それは、朝のホテルの雰囲気も見てみたかったから。そこがC級ホテル評論家としての好奇心。

ホテルはとても爽やかだった。ロビーでは長期宿泊者さんたちが3人で談笑していた。肝心の部屋は、みんなどこかへ戻って行ったのだろう。全く何の痕跡もなく、平穏無事な雰囲気を醸し出していた。そして僕は部屋に置き去りにしていた大きなカバンを抱えてチェックアウトした。

その時に僕は、ひとつだけ失敗したことに気づいた。あらかじめ戻ってくるにしても、全ての荷物を持って行けば良かったことに。

帰宅後、僕はカバンの中身を全て出し、細かくチェックした。でも相手はミリ。どこかに潜んでいる可能性もある。なので、今でもカバンはより大きなビニール袋に入れられ、部屋で厳重に保管されている。

■プロフィール
はんつ遠藤
1966年東京生まれ。早稲田大学卒。不動産会社勤務を退職後、海外旅行雑誌のライターを経て、フードジャーナリスト&C級ホテル評論家に。飲食店取材軒数は1万軒を超える。主な連載は「週刊大衆」「Ontrip JAL」「東洋経済オンライン」など。著書は「取材拒否の激うまラーメン店」(廣済堂出版)など27冊

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