突如誕生した「ANAあきんど」、結局何をしている会社なのか 手本は近江商人の哲学?

ANA

ANAホールディングス(ANAHD)のグループ再編によって今年4月、「ANAあきんど」という一見風変わりとも思える名前の会社が誕生した。江戸時代から明治にかけて日本の商業を支えていた近江商人が哲学とした「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方良し」の精神を取り入れているというこのANAあきんど、一体何をしている会社なのだろうか。

ANAあきんどは、航空セールス事業や旅行事業を担っていた「ANAセールス」を前身として、商号変更により4月1日に始動した。主体としていた旅行事業を別会社に継承し、それに代わって重きを置くのが地域創生事業だ。全国に置かれた33の支店が中心となり、雇用対策や観光振興など地域の課題を解決しながら自治体や事業者を支援する。航空物流や物販など、ANAグループのネットワークを活かしたソリューションを提供できることが大きな強みだ。

廃農園問題に取り組む松山支店

具体的な事例を見ていく。高齢化や後継者不足によりミカン農園の廃園が課題となっている愛媛県で事業展開するANAあきんど松山支店では、まずはふるさと納税制度を活用した取り組みに乗り出した。地元の生産者「石丸農園」と連携して、納税者に伊予柑の木のオーナーになってもらうというものだ。松山市に5万円寄付すると、1年間伊予柑の木1本の所有権が得られる。冬にはオーナー自身が伊予柑を収穫できる。1本あたり約60キロの伊予柑が採れるという。オーナー自身が収穫することで、農園としては売上を維持しながら人手も減らせる。ANAは収穫ツアーなどを企画・販売し、顧客に体験価値を提供する。「売り手(ANA)よし、買い手(顧客)よし、世間(自治体、農園)よし」というわけだ。

▲ANA農園に立つANAあきんど松山支店 谷山章支店長

さらに、ふるさと納税と並行して進めているもう一つの取り組みが「ANA農園プロジェクト」だ。廃園となった耕作放棄地を「ANA農園」として再生させ、収穫した果物をANAブランドとして販売する。農園の管理・運営はノウハウのある石丸農園に任せ、ANAあきんどはプロジェクトの全体統括、収穫物の販路拡大やブランディングを担う。ANAあきんど松山支店の谷山章支店長は、「どういう商品が売れるか、どういう世間の反応があるかなど、ANAがブレイン側としてノウハウを注入することでシナジー効果を生みたい」と語る。運営サポートとして愛媛県出身の客室乗務員1名も派遣されており、CAならではのアイディアを活かした商品やブランディング手法も生まれそうだ。

ANA農園用の土地は既に複数区画確保され、来年3月には本格的に栽培を始められる見通し。品種は特産の伊予柑のほか、高級種とされる甘平(カンペイ)などを準備している。果物は青果や加工食品として販売するだけでなく、機内食などで提供することも想定しているという。また、余った皮を活用したコスメ商品の開発も検討中。果皮は通常、産業廃棄物として処分されているため、有効活用はごみ削減にもつながる。海外への販路拡大も見据えて越境ECも準備中だ。

とは言え農園側にとって一番の課題となるのは人手不足。特に10月〜3月の収穫期は顕著で、農園の担当者も「突然寒波が来て急いで収穫しないといけないときも人手不足で間に合わず、だめになってしまう果物もある」と漏らす。この問題の対応策としてANAあきんどが考えているのが、農業体験に興味を持つ人を都市部から誘客するグリーンツーリズム商品の造成だ。まずはANAグループ社員を対象に移住体験を公募し、課題を洗い出す。

▲これから造成を始めるANA農園予定地の一画

谷山支店長は、「(農園プロジェクトは)松山が初めての取り組みになるので、過程を告知していきたい。これが成功したら、例えば青森のりんご園や長野のぶどう園など、同じ課題を抱えている地域に横展開できる」と青写真を描く。

ANAHDはANAあきんどなどを中心に、早ければ2022年度にも提供を始める「ANAスーパーアプリ」を起点とした「ANA経済圏」の実現を目指している。今回紹介した事例のように、ANAグループの強みを最大限に活かした取り組みを全国に広げられるかどうかが大きなカギになりそうだ。