“何もない”を楽しんで 直行便復活に湧くサイパンの近況を日系ホテル幹部に聞く

日本から南に約2,500キロの太平洋に浮かぶ北マリアナ諸島の中心地、サイパン。近年は韓国系航空会社の席巻により韓国人観光客が急増し、島内のホテルも韓国企業が運営するところが少なくない。そうした中で、島北部のアチュガオビーチに面した「アクアリゾートクラブサイパン」は、不動産大手のケン・コーポレーションが運営する日系ホテルの一つだ。

真っ白な砂と透明度の高い海が広がるアチュガオビーチに面し、敷地内に生い茂る南国植物に囲まれるように8つの客室棟が立つ。91の客室は全てがポリネシア風のヴィラ仕様だ。敷地の中央には2つのプールと、リゾート感溢れるカクテルを提供するバー。ビーチサイドではポリネシアンダンスや弾き語りを楽しめるバーベキューディナーショーが開かれる。

「サイパンの田舎らしい雰囲気を満喫してほしい」と話すのは、アクアリゾートクラブサイパンでアクティングゼネラルマネージャーを
務めるサチコ・ジェラード氏。コロナ禍のサイパンの状況や今後の課題、ホテルのこだわりを聞いた。

夏までは「予想より悪い結果」

▲アクアリゾートクラブサイパン サチコ・ジェラード アクティングゼネラルマネージャー

――コロナ禍以降の状況を教えてください。

(感染拡大後)最後まで踏ん張ったのですが、2020年3月29日からクローズすることになってしまいました。ただ、サイパンは1日あたりの感染者が2桁程度だったので、ローカルのお客様だけにでも食事や宿泊の楽しみを提供したいと思い、同年7月に営業を再開しました。

とはいえ、例えばレストランなら通常は100名入るところを、(政府の規制で)40名ほどしか入れることができない状態で、150名近くいた従業員も70名以下まで減らすことになりました。

――回復の動きはどうですか。

2021年に韓国路線が復便してからは徐々にリゾートらしさが戻ってきました。しかし、回復のペースはかなり緩やかで、全体的に見るとまだ30%程しか埋まってない状態です。今年6月にサイパンでパシフィックミニゲームズというスポーツイベントがあり、一時的に稼働率が60%台まで上がりました。

夏はそのイベントをきっかけに予約が伸びると見込んでいましたが、日本も韓国も感染者が急増してしまい足踏みが続いています。当日までキャンセル無料というかなり融通の効いたパッケージを出していたのですが、予約が入っても前日や前々日に落ちてしまうという状況でした。(当時は帰国時PCR検査があったので)帰国時に陽性が判明して仕事に影響が出たりとか、そういう懸念があったのだと思います。結局、8月は40%程と、予想より悪い結果でした。ただ、その後日本も韓国も帰国の水際対策が緩和されたので、これで少しは伸びるだろうとほっとしています。

――元々、韓国人観光客がほとんどだったのですか。

2019年は韓国人のお客様が75%です。パンデミック前と比べると、3〜4名の若い女性グループが多く見受けられます。中国のお客様は2017年がピークで、かなり弱くなっていました。現在は韓国人が95%以上で、残りはビジネスなどのアメリカ本土のお客様です。日本のお客様はまだ数字として出せるほどではありません。

カジュアルな料金でとにかくサイパンに来てもらう

――2019年にスカイマークが就航しましたが、当時の日本人の動きはどうでしたか。

就航したのが11月29日でしたが、年明けにはもうコロナの影響が出てきてしまったので、残念ながらしっかりしたデータが拾えていません。

――そうした中で、9月にユナイテッド航空の成田直行便が就航しました。

大歓迎しています。スカイマークにも期待していたのですが、なかなか復便が見えない状況でユナイテッド航空の直行便が決まり、我々にとって大きなインパクトでした。取り込んでいきたいですね。最近はかなり韓国マーケットに押されていましたが、今後、スカイマークとユナイテッド航空の2社が飛んでくれれば、日本マーケットも活気が出てくると思います。

――そもそもコロナ禍前からサイパンは観光地として苦戦している面がありました。課題はどこにあると思いますか。

まずはフライトの本数ですね。そして、料金のカジュアルさが必要です。とにかくサイパンに来てもらうことが必要だと思っています。パッケージ料金はホテルの努力だけではどうしようもない部分があるので、エアラインや政府など各方面が一丸とならないと、他のデスティネーションには勝てないと思います。

「なにも計画がない人」にこそ来てほしい

▲ホテル前のビーチでは、飛び込みでも参加できるヨガ教室が開かれる

――ホテルの売りはどんなところですか。

日本も韓国も都会なので、サイパンの田舎らしさ、自然に溶け込んだ環境を押し出して、都会から来るお客様に癒しを与えたいと思っています。何にもないところでぼーっとする時間を過ごしてほしいですね。

正直、私は部屋からテレビも時計も外したいと思っています。私がサイパンに初めて来たときに驚いたのは、島に時計がないことでした。腕時計がないと時間がわからないのです。でも、それこそがサイパンらしいのかなと思います。なんとなくお腹空いたからランチを食べようかなとか、日が暮れてきたから夕食かなとか、時間を考えさせない環境がサイパンらしさではないでしょうか。

――どのような層がメインターゲットですか。

全91部屋という規模なので、ダイビングのお客様やゴルフのお客様、ハネムーナーなど全てターゲットにすると、うちらしさがなくなってしまいます。のんびりしたい、何も計画がない、とにかく疲れを癒したいというお客様に来てほしいと思っています。

――韓国人が多い中で、食事はどんな工夫をしていますか。

日本人のお客様はローカル料理に興味があるようで、地元食材に関する問い合わせもかなり多い傾向です。一方、韓国人のお客様は自国の食べ物が好きなようで、キムチを持ってくる方もいます。これを両方カバーする必要があるので、日本・韓国・ローカルの3種類の料理を日替わりで出したり、組み合わせて出したりしています。

――これから海外旅行を検討している日本人に向けて、メッセージをお願いします。

この数年間、コロナ禍でものすごくストレスを抱えていたと思います。ぜひサイパンに来て、ゆっくり開放感を味わってください。