「アンデルセン」のデニッシュペストリーを求めて、広島ではなくコペンハーゲンに飛んだ話【レポート】

広島の人ならほとんどの人が知っているパン屋がある。デニッシュペストリーが名物の、広島発祥「アンデルセン」だ。

2022年現在、「アンデルセン」は北海道から九州まで、系列店を含めればアメリカにも展開している。さらに、フランチャイズ事業として「リトルマーメイド」を全国に展開しているので、「アンデルセン」「リトルマーメイド」の名前を聞いたことがある、という人はきっとたくさんいると信じている。

そんな広島生まれの「アンデルセン」のルーツが、デンマークにあることは、そこまで意識されていないだろう。

「アンデルセン」のルーツ、デンマーク

創業者の故・高木俊介氏が、デンマークを視察した際のデニッシュペストリーとの出会いから、「アンデルセン」の歴史が始まったとされる。

店名の「アンデルセン」は、19世紀のデンマークの童話作家・詩人のハンス・クリスチャン・アンデルセンの名前をとったものだ。「人魚姫」「みにくいアヒルの子」「マッチ売りの少女」など、現在も彼の多くの作品がおなじみのものだ。

そんな「アンデルセン」のルーツであるデンマークには、広島生まれの「アンデルセン」の店舗があるという。なかなか興味をそそられる。実際に確かめるべく、筆者は首都・コペンハーゲンに飛んだ。

デンマークの首都・コペンハーゲン

デンマークの首都であり最大の都市、コペンハーゲンは、デンマーク語で「商人たちの港」を意味する港湾都市。人口はおよそ80万人で、広島市の人口の3分の2ほど、人口の規模は広島の隣の県庁所在地、岡山市が近い。

同国の政治や経済の中心地として、北欧の成熟した都市の風景を眺めることができる。「北欧のパリ」の異名を持ち、整然とた街並みはこの場所の魅力の1つだ。

空の玄関口となるコペンハーゲン・カストラップ空港には、スカンジナビア航空による成田からの直行便が就航している(昨今の世界情勢の影響で運休)。また、日本からは欧州内での乗り継ぎでのアクセスも悪くない。コペンハーゲン空港から市内中心部までは、鉄道や地下鉄、バスなどで15~30分程度だ。

筆者はその市内中心部にある「アンデルセン」の店舗まで地下鉄で向かった。

アクセスしやすい便利な立地、

コペンハーゲンの「アンデルセン」は、コペンハーゲン空港もあるアマー島の西端付近にある。いくつもある橋を渡ると、コペンハーゲン都心のあるシェラン島に向かうことができ、都心部とは歩いて行き来ができる、人通りが多い地域に位置する。

地下鉄でアクセスした筆者は、最寄り駅の「Islands Brygge」で降り、北東に約5分歩く。大きな通りから1本入ったところに「アンデルセン」の店舗を見つけた。

窓には、「ANDERSEN BAKERY」という文字とともに、丸ゴシックで「アンデルセン」とカタカナで書かれている。ちょっと日本人の遊び心をくすぐる外観だ。早速店内に入ってみよう。

まるでオアシスのような、安心感のあるベーカリー


店内は、カフェを併設しており、日本の店舗と同じように彩り豊かなパンを選べるようになっている。価格は大きさや種類によって異なるが、13~28デンマーククローネ(日本円で280円から600円)ほど。物価が高いといわれる北欧でのパンの価格としては標準的で、日本品質のパンが食べられるという点からすれば良心的な価格ともいえる。

店員にパンを選んで袋詰めしてもらう方式のため、種類が多く悩んでしまった筆者は、おすすめの商品を選んでもらうことに。この時の店員さんは、画像中央の「スパンダワー」を勧めてくれたので(日本でもおなじみだが)、すぐ食べる目的で購入。

店の窓と同じロゴ(カタカナも!)が印刷した袋に入れてくれた。

北欧らしい石畳の街並みと、古い建物に囲まれた中でデニッシュを食べる。カスタードクリームの素朴な味わいと、口いっぱいに広がるバターの香り、そして、それらが合わさってもたらされる充実感をかみしめることができる。

日本の味とほとんど違わない、王道の味わい。若干大ぶりな気がするが、ペロリと感触。食べている間は遠く離れた異国の地にいることを思わず忘れてしまうほどであった。

日本の繊細さを感じる「アンデルセン」、コペンハーゲンに活路ありか

パンを選ぶ間、少しばかり店員とコミュニケーションをするタイミングがあったので、「日本のアンデルセンも好きで、日本から来た」と伝えると喜んでくれた。そのうえで、日本の店と比べてこの店はどう?と尋ねられた。ここは「どのパンも日本のアンデルセンと同じようにおいしそうに見えるよ」と伝えると、喜んでくれた。

このコペンハーゲンの「アンデルセン」、現地の人にも人気のようだ。私が足を運んだ時も、客が途絶えることがなく、お世辞にも広いとは言えない店内がにぎわっていたのが印象的だった。

日本らしい、目にもおいしい彩り豊かなパンが並ぶ「アンデルセン」は、他のベーカリーとよく差別化できているようで、現地の人が足繁く通う要因だと推察する。物価の高い北欧だからこそ、付加価値をたかめて商品を提供する「アンデルセン」の戦略は有効かもしれない。

そんな「アンデルセン」は、当地を訪れる日本人にも興味深いだろう。もし、コペンハーゲンを訪れる機会があるなら、日本とデンマークの文化が融合した「アンデルセン」を、コペンハーゲン滞在中に食べることをおすすめしたい。

店内ではコーヒーやカフェラテなどの提供もあり、客席で味わうこともできる。種類が豊富なので、ホテルの客室に持ち帰るなどして、複数人で分け合いながら食べるのもよいだろう。

なかなかコペンハーゲンを目的地とした旅行をプランニングすることは少ないかもしれないが、異国の地に”逆輸入”された「アンデルセン」を、その経緯に想いを馳せながら味わってみてはいかがだろうか。