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今夏は稚内へ 東急は何故「THE ROYAL EXPRESS」を北海道で毎年運行するのか
伊豆を走る観光列車「THE ROYAL EXPRESS」を使った北海道クルーズツアーが今夏も実施される。所属区の伊豆高原から北海道まで1,000キロ以上もの距離を輸送してから運行するという大掛かりな企画で、2020年に始まったものだ。
THE ROYAL EXPRESSは伊豆急行線を走る豪華観光列車だ。JR九州の観光列車「ななつ星 in 九州」などを手掛ける工業デザイナーの水戸岡鋭治氏が全体デザインを担当し、車内にライブラリースペースやダイニングスペースが設けられるなど、伊豆エリアの従来の観光列車とは一線を画す高級感が漂う。
2017年のデビュー後、普段は主に横浜〜伊豆急下田駅間で運行されているが、2018年に発生した胆振東部地震を受け、被災地となった北海道の観光振興と地域活性化のため東急とJR北海道が道内でのクルーズツアーを企画。運行に必要となる電源車の手配や車両輸送に関してJR東日本とJR貨物の協力を得て、2020年8月に初めて実現した。
初回は札幌駅発着で道東エリアを巡る3泊4日のツアーで、地元の飲食店や生産者と連携して北海道ならではの食材にこだわった料理を車内で提供するなど、地域に根ざしたおもてなしを用意。現在では毎年夏の恒例企画となり、コロナ禍の影響が残る中でも倍率約3倍、リピート率約30%(いずれも2022年運行時)を記録する人気ツアーに成長した。
とはいえ、運行にかかるトータルコストを勘案すれば、東急にとっての収益面でのメリットは薄いように思える。なぜ毎年、約1,000キロ離れた伊豆から車両を輸送してまで北海道クルーズを運行するのだろうか。
▲東急 社会インフラ事業部クルーズトレイン推進グループ 松田高広統括部長
「グループで培ってきたブランドやノウハウを生かした社会貢献の一環」と説明するのは、北海道クルーズを担当する東急社会インフラ事業部クルーズトレイン推進グループの松田高広統括部長だ。
東急グループといえば、元々は宅地開発事業を源流とする“まちづくり企業”という面がある。まちづくりといっても純粋な都市開発だけでなく、近年では仙台空港の民営化に参画したり、電力自由化に合わせて電力・ガス事業にも乗り出したりと、多様なアプローチで取り組んでいる。北海道クルーズの狙いも、ツアー自体で利益を出すことではなく、観光振興をきっかけとした地方創生、ひいては持続可能なまちづくりにつなげたいという部分にあるのだろう。
地震からの復興という役割は果たしたように思えるが、コロナ禍による観光業全体の落ち込みもあり、道内の各地域からクルーズ列車を望む声があがるようになった。松田統括部長は「お客様からは毎年期待の声をいただき、地域からも歓迎してもらっている」と手応えを感じている。
4年目となる今年の夏は、宗谷本線に乗り入れて道北エリアに向かうコースを新設。海岸線を走る絶景ドライブルートとして知られるオロロンラインや、日本最北端の地・宗谷岬などを巡り、稚内名物のタコしゃぶをはじめとした海の幸を堪能する。「最北端に行きたいということで今年は稚内エリアを選んだが、どの地域にもプレゼンテーションできる素材はたくさんある」と松田統括部長は来年以降の運行も見据える。
北海道クルーズを利用した人が伊豆を訪れるようになったり、伊豆で乗車した人が北海道クルーズにも参加したりするようになるなど、相互作用も見られるようになった。松田統括部長は「我々のビジネスの成長に合わせて、地域も相互に発展していく流れが生まれるようにしたい」と展望を語る。企業の垣根を越えた北海道クルーズの事例は、地方創生の新たなモデルケースとなって今後の観光列車のあり方を変えていくかもしれない。