大井町「大変貌」への布石 京浜東北線を止めた線路切替工事
JR東海の奈良キャンペーンは「うましうるわし」から「いざいざ」になって何が変わったのか
まずはCM聖地巡礼
とはいえ奈良と言うと、やはり神社仏閣の印象が強い。今回のCM(30秒版)でも冒頭15秒は春日大社が取り上げられている。これまでのキャンペーンであれば30秒全て神社仏閣のシーンとなりそうなところであるが、次のカットで登場するのは近代文学を代表する作家・志賀直哉の旧居だ。
東京、広島、京都、島根など生涯で23回も引っ越ししたと言われる志賀は、自身が設計したというこの邸宅で、1929年から約9年を家族とともに過ごした。現在は学校法人奈良学園が取得・保存し、一般公開されている。全体としては数寄屋風の造りだが、随所に様式の意匠が取り入れられ、モダンな雰囲気を醸し出している。春日大社のほど近くに立つこの邸宅の書斎で、志賀は代表作「暗夜行路」を完成させたと言われている。
▲食堂に隣接するサンルームは「高畑サロン」と呼ばれ、武者小路実篤や小林多喜二ら志賀と交流のあった文化人が集ったという
続いてCMに登場するのは、志賀直哉旧居に隣接するカフェ「たかばたけ茶論(さろん)」。
志賀邸の高畑サロンのように出会いと集いを楽しめる場にしたいと、高畑在住の画家・中村一雄氏が自宅の庭を開放して約40年前にオープンさせた。人気商品はチーズケーキ。店内はもちろん、季節の花が咲くガーデンテラスでも、淹れたてのコーヒーとともに味わえる。
CMの最後のシーンは、関西の迎賓館として1909年に奈良公園内に創業した奈良ホテル。現在はJR西日本の子会社が運営している。
設計は東京駅などを手掛けた建築家・辰野金吾によるもので、軽井沢の万平ホテル、横浜のホテルニューグランドなどともに、戦前から歴史が続くクラシックホテルの一つとして数えられる。
和洋折衷建築の館内には、春日大社の釣燈籠をモチーフにした和風シャンデリアや、愛新覚羅溥儀が旧満州国皇帝時代に宿泊した際に用意された食器など、歴史ある貴重な調度品の数々が現存する。創業当初から使われ続けているクラシックな本館に加え、1984年には「吉野建て」と呼ばれる奈良・吉野独特の建築様式が取り入れられた新館が建てられた。
▲館内のバーでは、なんとそのグラスで提供されるカクテルもある
CM内で取り上げられているのはここまでだが、さらにキャンペーンサイトで紹介されているスポットも巡っていこう。
食事にカフェ、日本酒も
まずは志賀直哉旧居から徒歩3分程度で行けるカフェ「空気ケーキ。」へ。
看板商品は店名にもなっている空気ケーキだ。カットケーキのようなものを想像していたが、出てきたのは意外にもマリトッツォのようなフォルムのお菓子。ケーキ風のどら焼きをイメージし、カステラ生地の間に空気をたっぷり含んだムースが挟まれた軽い食感の一品だ。
▲抹茶やブルーベリーチーズ、マロンなど、様々な種類が日替わりで販売されている。
▲空気ケーキのほかにも、奈良県産の食材や季節の果物を使ったお菓子が並ぶ
同じくお洒落なグルメスポットとして紹介されているのは「GELATERIA FIORE(ジェラテリア フィオレ)」。国内最古かつ最大の十二神将立像で知られる新薬師寺の目の前にあるこの店では、素材の味を活かした手作りジェラートが楽しめる。
ソフトクリームのように先端を尖らせる盛り付けは手作業によるもの。空気を含ませ、できたてのような食感で味わえるようにしているのだという。煎茶、チョコレートといった定番メニューのほか、季節の果物などを使った期間限定メニューも含め、常時10種類が並ぶ。シンプルだからこそ、素材選びには特にこだわっているという。
▲アンティークの器で提供される。この日の限定フレーバーは、奈良県生まれの苺「古都華(ことか)」(右から2番目)
ジェラテリア フィオレのすぐそばには、戦前から昭和後期まで活躍した奈良県出身の写真家・入江泰吉の作品を所蔵する「入江泰吉記念奈良市写真美術館」がある。
入江が約半世紀にわたって撮影した作品数は8万点に及び、その全てが収蔵されている。入江は旧国鉄の観光キャンペーン「ディスカバー・ジャパン」などの広告写真も手掛けており、当時のポスターも展示されている。
スイーツの店を先に紹介してしまったが、“奈良らしい”食事スポットも2箇所紹介しておこう。1軒目は奈良公園の一角にある「日本料理 滴翠」。
ここでは奈良県産の和ハーブや大和野菜を使った料理を味わえる。ちなみに、運営はラグジュアリー旅館「ふふ」やうどん店「つるとんたん」を手掛けるカトープレジャーグループ。滴翠を含む「ふふ 奈良」の設計は建築家の隈研吾氏が担当している。
2軒目は、古民家を改装したならまちの肉懐石「冨久傳(ふくでん)」。
黒毛和牛「大和牛」やブランド豚のしゃぶしゃぶを中心に、季節の食材を使った料理や奈良の日本酒を楽しめる。奥には蔵を改装した個室があり、特別なシーンでも利用できる。
日本酒と言えば、清酒発祥の地は奈良ということはご存知だろうか。室町時代、僧侶の生活費や建物の維持費の確保に頭を悩ませていた正暦寺という古刹が、武家や貴族に酒を売って財源を確保しようと清酒の製法を編み出したとされている。そうしたルーツから、奈良県内には多くの酒蔵が存在する。それらで造られた奈良の酒が揃うのが、近鉄奈良駅から続く商店街の奥にある日本酒専門店「なら泉勇斎」だ。
風の森や春鹿、みむろ杉など有名な銘柄から、他県ではあまり見かけない珍しい銘柄まで、28酒造120種類以上の地酒を販売している。
要冷蔵の日本酒は持ち帰りが大変……という人には角打ちがおすすめ。店で扱っている銘柄なら何でも飲ませてくれるという。例えば「生駒の辛口の銘柄」というようなざっくりとした注文でも、店主がおすすめの銘柄を選んでくれるので、角打ちに慣れていない人も安心だ。
▲グラス1杯200円からと気軽に楽しめる。飲みすぎ注意(自戒)
最後は高畑エリアから少し外れてしまったが、以上が今回の「いざいざ奈良」キャンペーンで取り上げられている主なスポットだ。カフェやグルメスポットも多く、これまで「奈良ってお寺と仏像ばっかりでしょ」と敬遠していた人にも、奈良を旅するイメージが湧いてきたのではないだろうか。最近ではCMを見て“聖地巡礼”に訪れる鈴木さんファンも少なくないという。
▲鈴木亮平さんがデザインされた奈良交通のラッピングバスも4月26日から運行中。2台しかないので、見つけられたらラッキー?