「高齢男性が弁当を2つ……」 きょう終了の東海道新幹線ワゴン販売、パーサーが語る思い出

東海道新幹線で長らく続いてきたワゴンの車内販売が、きょう10月31日で終了する。

東海道新幹線では開業当時の1964年から車内販売が行われており、約60年にわたる歴史がある。JR東海によると、ワゴン販売が始まった時期については記録が残っていないが、時代のニーズに合わせた商品を揃え、過去には週刊誌を取り扱っていたこともあるという。

近年になって駅ナカ店舗が充実し、車内に飲食物を持ち込む乗客が増えたことや、労働力が不足してきたことなどから終了が決まった。

▲弁当や菓子類、飲料など、様々な商品が揃うワゴン販売

2004年から約20年にわたってワゴン販売を担当してきたJR東海リテイリング・プラス大阪列車営業支店の川尻真富果さんは、忘れられないエピソードがあると話す。

東京から新大阪方面に向かう列車に乗務していた川尻さんは、ある高齢の男性に呼び止められた。その男性は一人だったにもかかわらず、弁当とお茶を2つずつ購入した。

しばらくして、ワゴンを押しながら再び男性の前を通ると、テーブルには弁当とお茶が1つずつ手付かずのまま置かれていた。そして男性は、ホットコーヒーとアイスクリームをまた2つずつ購入した。不思議に思った川尻さんがふと男性の座席に視線を落とすと、男性と高齢の女性が一緒に写った写真が置かれていた。

思わず「奥様と一緒にご旅行ですか?」と声をかけると、男性はその日が結婚記念日で、前の年に他界した妻が大好きだった京都へ思い出巡りに行くところだと話してくれたという。

「東海道新幹線は1日に300本走っていて、1列車に約1,300人のお客様がいます。その中で、同じ列車に乗り合わせるのもご縁。お話しして気持ちが通じ合うのもご縁だと思います」。ワゴン販売を通じて、様々な乗客の人生に寄り添えたことが思い出だと川尻さんは振り返った。

ワゴン販売はなくなるが、11月からはグリーン車を対象に、乗客がスマートフォンで注文した商品をパーサーが座席まで届けるモバイルオーダーサービスが新たに始まる。なお、JR西日本の山陽新幹線区間ではワゴン販売は継続される。