昭和的西成ホテルも日々進化する「ホテルはつね」【はんつ遠藤の大阪・西成C級ホテル探検(21)】

パリオリンピックも閉会し、日常を取り戻した感のある昨今。地震大国の日本は相変わらず南海トラフ地震の危険性を抱え、円安や株価乱高下の不安も有し、物価高が進行する中でも賃金は余り増えないなど懸念は様々にも関わらず、それでも日常は粛々と過ぎる。インバウンドの外国人観光客も増加の一途で、東京や大阪のみならず有名観光地に赴けば、多種多様な国籍の方に遭遇する。まるで数十年前のバンコクにいるような気分にすら、なってくる。

それは大阪西成でも同じ事で、コロナ禍以前に戻ったような、否、それよりももっと欧米人も増え、多国籍な街がそこにある。

また西成へと向かった。僕が大阪に行くのは遊びでは無く、週刊誌で連載をしているために飲食店に取材に伺う為だ。昨年度までは東京での所用の為に1泊2日が殆どだったが、今年度から2泊3日が可能になった。以前は一回で4軒取材だったのが6軒伺える事になり、ゆえに4週ごとから6週ごとへと減り、その分、往復の交通費が3分の2に減った。

ならば経費が減少したのだから、何も激安の西成に泊まらずとも大阪市内の一般的なホテルに宿泊すれば良いのではという知り合いもいたが、好きなのだから仕方がない。

対外的には「なぜ西成に泊まるのか」と聞かれた時は、「そこに西成があるからだ」と答えている。

今回は「ホテルはつね」に宿泊した。連載では書いていないが、過去に2度ほど宿泊した事があり、勝手は知っている。とはいえコロナ禍以前だったので、現在はどう変化しているか、も気になった。

チェックインは正午から午後9時まで。西成ど真ん中的な立地だが、阪堺電気軌道阪堺線の線路西側に平行する道を南へと向かうのが一番安全な行き方だろうか。今回はまだ明るい時間に訪れたので、特に危険は感じなかった。もっとも、この界隈は時折、奇声を上げていたり、道端にしゃがみこんで一点を見つめながら缶の酎ハイを呑んでいる高齢者がいるものの、自分的には被害は無い。

入口には「共同住宅 福祉の方 歓迎します」と書かれた立て看板があった。

部屋数は60室ほどで、いわゆる生活困窮者も受け入れている1軒。土足厳禁で、玄関でスリッパに履き替えて館内へ入るスタイル。昭和的な雰囲気を色濃く残し、古さは否めないが、きちんと掃除がなされているのも好印象だ。

1階にはソフトドリンクの自動販売機のほか、階段脇にアルコールの販売機も設置されていた。

ピンクの電話に懐かしさを感じるが、Z世代ならば逆に”エモい”と感じるかもしれない。

驚いたのは、以前には無かったポットや電子レンジも備え付けられていた点。古いままでは無く、常に進化をしようという姿勢が伺えた。これで1泊素泊まり税込2,000円。

フロントの男性は優しくて親切な印象だった。カギを受け取ってアサインされた3階の部屋へと向かった。

三畳一間の和室の部屋。

ちょっとしたテーブルもあり、ゴミ箱やティッシュ箱も置かれていた。

それとテレビと冷蔵庫。和室なので虫の心配が一瞬よぎったが、結果的には大丈夫だった。

ちょっと驚いたのはハンガーの量。大抵は2つだが、なんと5つもあった。そんなには要らないと少し微笑んだが、多いに越した事は無い。冷暖房は個別にエアコンがあるわけではなく、全館集中管理。

それと、ドアノブ内側には「そうじよし」と書かれた紙がぶら下がっていた。チェックアウト後に掃除が完了したら、これを外側のノブにかけるのだろうか。

無料のWi-Fiも飛んでいて何の問題もない速度だった。ネットの情報だと全室では無いらしく全室に向けて誠意努力中らしいが、ネット予約で訪れた客の部屋は、まぁ大丈夫だろう。

そうそう、ハブラシやカミソリはおろか、タオルすら無料貸与が無い。西成のホテルではそういうところも見受けられる。一度、タオルを持参するのを忘れて宿泊してしまい、シャワーを浴びた後にそのまま服を着たことがある。寒く無い時期だったので、案外と平気な事を学習したが、そもそも自分のような事にならないよう、事前の予習は必要だ(アメニティはフロントで購入可能)。

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